台東県延平郷桃源村:布農部落休間農場でブヌン族の文化体験。
【台東県鹿野郷の渓谷。橋がなかった頃は集落が孤立していたかも】
池上駅から台東県に入りゴールの台東は間近となったが、もう一回だけ途中下車。鹿野駅である。
鹿野駅周辺の鹿野郷はなだらかな丘陵地帯を利用したお茶の栽培が盛んで、温泉もわいています。
しかし、今回の目的地はその鹿野郷ではなく、鹿野郷のお隣の延平郷の桃源村です。
延平郷に住む住民の大半は原住民族のブヌン族。
彼らは元々島の山岳地帯に居住していたのですが、他の原住民族や漢人とのいざこざが絶えず、
さらに日本統治時代には日本人ともぶつかり、日本政府がこの地に定着させたそうだ。
桃源村は切り立った2本の渓谷V字型に囲まれています。
昔は今のように立派な橋もなかっただろうし、要するに他民族と生活空間を分離するためにここを選んだんだろう。
その桃源村にブヌン族の伝統と文化を継承するために作られた観光施設があります。
そこが今回の目的地です。
台湾は日本が統治する前から気候条件のいい西海岸にばかり人口が集中していました。
日本統治時代に花蓮などの港ができたり、日本人移民を入植させて東側も開発したりしたようですが、
現在もやはり政治・経済の中心は西海岸という構図は変わっていません。
そのため若者の多くが都会に出てしまい、田舎町が過疎化していくという日本と同じ問題を抱えています。
桃源村も過疎化の一途をたどっていた村の一つ。
そこで村民の経済的自立とブヌン族の民族文化の伝承と発展をめざし、一人の牧師さんが立ち上がりました。
その牧師さんが立ち上げたブヌン文教基金会の事業の一つが「布農部落休間農場」です。
布農部落周辺の景色。
すぐに宿泊予約OKの返信がきました。
鹿野駅までの迎えに来てくれるというので交通部鉄路管理局で時刻を調べ、
列車の到着時間を伝え、現在に至るのであります。
当日、迎えに来てくれたのは優しそうな顔立ちの大柄な男性で、
民族衣装と思われる織物のベストを着ていた。
黄色い車体のタクシーに乗せられた時にはすこしびっくりしてしまったが、
タクシー兼送迎車として使っている車のようでした。
時々、片言の英語や日本語で話してくれる気遣いが好印象です。
布農部落の入口。
地図を見る限りでは道は単純でいざとなったら自力でもたどり着けるのでは
とタカをくくっていたが、人通りも少なく、目印もほとんどない田舎道な上に、
思っていた以上に駅から遠かった。迎えに来て貰ってよかった・・・。
ちなみに台東から延平郷まで来るバスは1日数本ありますが、
バス停から布農部落まで自分の力でたどりつくのは大変だと思います。
道路の所々に小さな看板がありましたが、見逃したら終わりです。
バスで来る場合も事前にバス停まで迎えに来て貰った方がよいと思います。
台湾原住民族影像誌。
英語、中国語、日本語と写真で
ブヌン族を紹介している。
送ってもらいました。
四維は花東公路と呼ばれる省道9号線沿いにあるバス停で、
この道路沿いでは桃源村の最寄りのバス停です。
バス停の目の前に「脱線牧場」というドライブインがあるのが目印。
ここから布農部落休間農場までは道のりで2キロくらいです。
ところで、チェックインが終わったところで「ブヌンには興味がありますか?」と何の脈絡もなくきかれました。
意味かわからずとまどっていると、まるで百科事典と見まがうような一冊の分厚い本を持ってきてくれました。
キリリとした表情のブヌン族男性が表紙を飾る「台湾原住民族影像誌」。なんと著者は日本人です。
瀬川孝吉先生が台湾を渡り歩いて集めた資料や写真を湯浅浩史先生が1冊の本にまとめた物で、
ブヌン族の風習、行事、衣装に生活様式など様々な写真資料に簡潔な説明を3カ国語でまとめてあります。
中でももっとも印象に残ったのは「酒」のページです。
酒宴:年中行事として各種行事の他、冠婚葬祭の後には必ず酒宴が行われる。まさに酩酊!という感じの写真が添えられているところがまた圧巻。文化なのですなぁ。
飲・食・泥酔・歌謡・談話・舞踏・休憩が数日に渡り繰り返されることも珍しくない。
(ケツ丸出しでうんこずわりしているおじさんのお尻とかも写っていたりする。でも学術資料。)
一方でこのブヌン文教基金会の活動の中に「アボリジニー禁酒センター」があったりするので、
飲酒が過ぎてアルコール中毒になってしまう問題もあるのかなと思ったりしました。
日本統治時代の台湾や朝鮮半島には日本の学者が学術調査に走り回っていたと聞きますが、
中には発表されておらず埋もれている研究成果もあるそうです。
この本はまさにそれをギリギリのところで発表が間に合った!というパワーを感じます。
しかも白黒とはいえ上質な紙のほとんど全ページに写真がいっぱい掲載されているのに、
値段が1800元程度だったのには驚いた。日本だと数万のオーダーだろ~。いや、びっくり。
もし興味があれば借りてみるといいですよ。かなり見応えアリの本です。
マジメな本だけど、写真ばっかりなので読みやすいです。
しかし、他民族との交流がうまくなかった民族だというのにここまで彼らの私生活に踏み込むことができたなんて、
この先生の人間性のなせる技なのかもしれません。
延平郷、桃源村、布農部落休間農場 関連の写真館
布農部落休間農場の施設はこんな感じ。
伝統行事の紹介や体験、自家牧場や畑で取れた作物を使った料理の提供、 野菜や果物の加工品、伝統工芸品の販売などが主な収入源。 野菜や果物は無農薬にこだわって付加価値を付けています。
若い子たちが、受付、土産物屋、レストラン、ショーなどいろんな場所を兼務して働いていました。 がんばってるなぁとほほえましかった。
工芸や弓矢体験などは都会に住む子供たちが喜びそう。恐らく夏休みなど賑やかでしょう。
初めは牧師が1人で始めた事業ですが、現在、正職員が40人、準職員が40人いるそうです。
ここまで来るのに相当な努力があったのだろうなぁと感慨深い物がありました。
日帰りの場合、施設入場料が150NT$(施設内で使える金券100NT$付き)。
民宿宿泊者は、入場料は宿泊代に含まれ、さらにコーヒー1杯無料、おみやげ物15%割引券付き。
さらに閑散期は宿泊料に温泉入浴料もサービスです。(近くの温泉に無料送迎してくれます。後述。)
【現在ある施設(施設資料より)】部落劇場、部落民宿、部落お食事どころ、部落喫茶店、織物工房、会議室、有機農場、牧場、農産物加工工場、コンビニ、リバーサイドパーク、蝶蝶谷地区、山林生態公園。